藻類機能形態学
Biology Program, Faculty of Science
University of the Ryukyus
Algal Functional Morphology
Research Projects
生命の本質である「生きている」という状態は代謝によるエネルギー生産と細胞の更新による各組織の維持によって支えられています。細胞の更新(入れ替え)が可能になったことで,多細胞生物の個体寿命は細胞寿命より遥かに長くなりましたが,一端細胞の更新が停止すると,ゆっくりと個体死へのカウントダウンが始まるのです。
「全ての細胞は細胞から生じる(Rudolf Virchow)」のであれば,細胞の更新を支える細胞の複製は細胞分裂によってのみ可能であり,細胞分裂を司るメカニズムを知ることは「生きている」状態を理解する手がかりになると考えています。
私たちの研究室では「生きている」ということはどういうことなのかを知るために,ストレス誘導性の再生・形態形成の過程に潜む細胞分裂制御の仕組みや,細胞分裂システムの解明などに取り組んでいます。
二次共生体における細胞分裂と葉緑体分裂の関係 -珪藻 Phaodactylum tricornutumnの場合-
二次共生生物である珪藻(不等毛植物門)の葉緑体は4重の膜に包まれており,これらの膜の起源は異なると考えられています。私たちは起源が異なる(と思われる)葉緑体分裂装置の協調システムに注目し,葉緑体が正確に2分割される仕組みにも興味を持っていますが,それ以上に葉緑体の分裂から均等分配までが細胞質分裂と同調して正常に進行する仕組みが知りたいと考えています。細胞に一つしかない細胞小器官は,確実に娘細胞に分配される機構が必ず存在するはずです。それはちょうど,核が均等に分配されるのと同様
に精密で正確な機構が存在しないと成立しないと考えています。私たちは葉緑体を一つしか持たない珪藻を用いてその仕組みを解明することで,葉緑体に限らず細胞内共生が成立するための協調メカニズムの理解に繋げたいと考えています。
褐藻類の傷害応答と植物ホルモン
沿岸海洋環境の一次生産者である海藻類は多くの動物による食害ストレスに晒されているため,様々な防御機構を発達させています。私たちが研究対象としている褐藻類は,陸上植物とも緑藻や紅藻とも異なる進化の過程を辿り,独自に多細胞体制を獲得した分類群です。ユニークな褐藻類を研究し,陸上植物を中心とした既知の知見と比較することは,より多細胞体制にとって重要で保存的な仕組みの発見につながると考えています。
私たちは現在,褐藻アミジグサを用いて,傷害によって誘導される様々な現象の精査を行っています。例えば,傷害
の種類や位置によって,失われた組織を再生する場合と新しい側芽(新芽のようなもの)を多数形成する場合があることが分かりました。どうやってアミジグサは受けた傷の種類や場所を感知しているのでしょうか? この反応の違いを生み出すのはどのようなメカニズムなのでしょうか?
さらに陸上植物では,傷や病原体の感染によって抵抗性と呼ばれる植物の免疫が誘導されることが知られています。海藻においてもテルペンやタンニン等の摂食忌避物質の蓄積や過敏感反応と呼ばれる現象がエリシターによって誘導されることが報告されていますが,陸上植物で見られるような,植物ホルモンを中心とした抵抗性の獲得が行われているかについては詳細に調べられてはいません。私たちはアミジグサの形態的な傷害応答に加えて,植物ホルモンの役割についても研究を行っています。
オキナワモズクの環境応答
沖縄県の主要な養殖産業であるオキナワモズクですが,実はその生物学的特性についての研究はあまり行われていません。私たちは地元の漁業者の方と協力しながら,生き物としてのオキナワモズクの特性を調査しています。オキナワモズクは多くの褐藻と同様に,胞子体(倍数体)と配偶体(半数体)の世代を交互に経て生きています。食用にされている胞子体とは違い,配偶体は数ミリから数センチというサイズであることから,天然環境で発見することはできません。私たちは研究室内でこの胞子体と配偶体の両方を用いて培養実験や観察を行い,オキナワモズクの生理学的な特性を調査しています。
生理学的な特性に加えて,実はオキナワモズクは発生の段階で常に異形発生を行うことがこれまでの研究で分かってきました。この場合の異形発生とは,遺伝的にも世代的にも完全に同じ個体(クローン)であるにも関わらず,発生段階での形態が全く異なるというものです。興味深いことに,世代によって各形態の割合が固定されていることが分かってきました。私たちは発生段階の形態的な差異がオキナワモズクにとってどのような意味を持つのかを明らかにしたいと考えています。
【共同研究課題】珪藻を用いた二酸化炭素濃縮機構の探索
沖縄県の主要な養殖産業であるオキナワモズクですが,実はその生物学的特性についての研究はあまり行われていません。私たちは地元の漁業者の方と協力しながら,生き物としてのオキナワモズクの特性を調査しています。オキナワモズクは多くの褐藻と同様に,胞子体(倍数体)と配偶体(半数体)の世代を交互に経て生きています。食用にされている胞子体とは違い,配偶体は数ミリから数センチというサイズであることから,天然環境で発見することはできません。私たちは研究室内でこの胞子体と配偶体の両方を用いて培養実験や観察を行い,オキナワモズクの生理学的な特性を調査しています。